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母子×アフォーダブルハウジングの海外事例を知る(アメリカ編)
先日株式会社LivEQuality大家さんにて、資金調達を実施し、様々な方から反響をいただきました。(プレスリリースはこちら)
LivEQuality大家さん、そしてLivEQuality HUBの活動を通じて、シングルマザー向けのアフォーダブルハウスの提供、特に「住まいと繋がり」の両輪で提供することの重要性を強く感じています。しかし、日本ではアフォーダブルハウジングという言葉自体浸透していないのが現状です。
そこで、2回にわたって、海外で注目を集めるアフォーダブルハウジングの事例を紹介します。
まずはアフォーダブルハウジングが市場として成立しているアメリカの事例をお届けします。
※アフォーダブルハウジングとは、就業機会を得やすいアクセスのよい物件や清潔さや利便性について一定の品質が保たれているなどの良好な環境において住居費を負担しても、十分に食費等の生活費を賄える水準に家賃を設定した住宅を意味します。
そもそもアメリカにはどの程度のシングルマザーがいるのでしょうか。
アメリカの国勢調査によれば、2022年には母子家庭(子どもが18歳未満)が780万世帯を上回りました。日米の人口差が約2.6倍であることや2022年の日本の母子家庭(子どもが20未満)が約120万世帯であったことを踏まえると、相対的に多いことが分かります。
また、アメリカは世界的にもひとり親家庭の比率が高く、18歳未満の子どもの23%がひとり親家庭で暮らしています(世界全体の平均は6.8%)。さらに、2019年のアメリカ全体の貧困率が10.5%だったのに対して母子家庭の貧困率は22.2%だったことからも、生活に困窮している母子家庭が多いことが分かります。
では、アフォーダブルハウジングについてはどうでしょう。
2021年には、アフォーダブルハウジングを必要とする人100世帯に対して37世帯分しか供給されていなく、低所得者の約70%が収入の大半を家賃に充てなければならない状況に置かれていました。また、住宅供給の減少や家賃の上昇により、多くの都市で最低賃金のフルタイム労働者ではワンベッドルームのアパートを借りるだけの収入を確保できない状況が続きました。そのため、2018年にはアメリカ全体で56,000世帯以上がホームレス状態に陥っていて、その約60%が母子家庭でした。
このような状況の中、アメリカ連邦政府は生活困窮者の家賃負担を軽減するためにいくつかの施策を打っています。その代表的なものはハウジング・チョイス・バウチャー(旧セクション8)、家賃補助の提供、公営住宅の開発です。
ハウジング・チョイス・バウチャーは、低所得者(収入が地域の世帯収入の中央値の50%未満)が民間の賃貸物件を借りる場合に、政府が賃料の一部を負担する支援制度です。この制度の利点は、支援対象者が(一定の安全・健康基準を満たす物件であれば)自由に住まいを選べることで、家賃補助対象の物件や公営住宅のように対象地域や物件数に制限がないことです。
しかし、このような公的な支援があるにも関わらず、アメリカではアフォーダブルハウジングの需要過多が生じていて、シングルマザー家庭を始めとする多くの人が貧困やホームレス状態に陥っています。そこで、これらの公的な支援を補う存在として重要であるのがNPOや民間事業者の存在です。
Mercy Housing (Home | Mercy Housing)
まず紹介するのはアメリカ全国でアフォーダブルハウジング事業を手掛ける老舗NPOのMercy Housingです。

Mercy Housingは40年以上アフォーダブルハウジング開発とコミュニティ形成事業を手掛けるNPOで、開始当初はネブラスカ州の修道院のシスターが始めた小さな慈善事業でしたが、不動産事業者と連携することによりアメリカ最大級のアフォーダブルハウジング事業者へと成長しました。
長年の経験を用いて、アフォーダブルハウジングの開発、改修、修繕、管理、投資など幅広く手掛けるほか、住民の自己実現を支援する各種サービスやコミュニティ形成にも力を入れています。各拠点では、住民サービスとして健康管理や家計管理のワークショップ、児童の放課後預かりサービス、コミュニティイベントなどを実施していて、シングルマザー家庭の生活の立て直しと地域への溶け込みを支援しています。
これまで48,000件のアフォーダブルハウジングの開発に寄与し、82,000世帯以上の家庭に居場所とつながりをもたらしているほか、2022年度には拠点を7つ増やすなど、サービスの拡大をし続けてることから注目を浴びています。
また、他のアフォーダブルハウジング事業者に対する支援も行っており、資金集めから建物の管理、コミュニティへの働きかけまで、これまでの経験で培ったノウハウの有効活用にも努めている団体です。
Bridge of Hope(Bridge of Hope (bridgeofhopeinc.org))
次に紹介するのは独自の事業モデルで全国展開に成功したBridge of Hopeです。

Bridge of Hopeはキリスト教の教会ネットワークを活用し、困窮している家庭の住まい探しや生活を支援しているNPOです。
この団体の最大の特徴は各地の教会コミュニティを拠点に、支援を必要とする家庭、住民ボランティア、ケースワーカーの三者が連携する事業モデルを構築していることです。住民ボランティアは教会コミュニティの有志で、子守りや日常の困りごとの手伝い、声掛けなどを通して、各家庭を見守る存在として活動します。ケースワーカーは、各家庭に対してケース・マネジメント、住まいの斡旋や専門機関への紹介、家計管理のアドバイスなどを実施するとともに、住民ボランティアに対するトレーニングやシングルマザー家庭と住民ボランティアのつなぎ役も担います。
このモデルの最大の利点は、シングルマザー家庭が住まいや生活面の支援だけでなく、今後の自立に必要となる社会的なつながりも得られることです。また、すでに各地に根付いている教会コミュニティをベースにすることで、担い手を確保しながら活動拠点を広げられるため、14州25拠点で活動する全国的なNPOに成長することにも成功しています。
2021年度には全国583人のボランティアとともに380人の親子を支援し、各地で大きな成果を出していることから注目を浴びています。
Fellowship Housing(Fellowship Housing (fhcmoms.org))
これ以降は、特定のエリアで活動する地域密着型NPOを紹介します。
まずはシングルマザーの自立に向けた二年間の集中プログラムを提供するFellowship Housing。

Fellowship Housingはイリノイ州のシカゴ郊外で30年間、ホームレス状態に陥りそうなシングルマザーの支援を行っているNPOです。
家計管理の基礎を学ぶ基盤構築期間、キャリア形成を通じて収入や貯金を増やす成長期間、住まい探しや周りの人との関係構築を行う準備期間、長期的なライフプランの作成や定住できる家を確保する独立期間の四つの期間からなる二年間のプログラムを通じて、シングルマザーの生活の立て直しを支援しています。
また、全期間を通じた住まいの提供や一対一のメンタリングなどの手厚いサポートにより、プログラム開始時に立てた目標の達成やプログラム修了後に自立した生活の実現ができるよう支援しています。
ここ数年は活動拠点を倍増させるだけでなく、プログラムに参加している、もしくは参加したことのあるシングルマザー家庭の子どもに対する奨学金制度などの新しい取組を開始したことから、改めて注目を浴びています。その結果、プログラム修了生の88%が定住できる住まいを確保するほか、プログラム参加前と比べて平均で$20,000程度借金を減らすことに成功しているなど、大きな成果を出しています。
二つ目の地域密着型NPOは、三つの異なる団体の事業を連携させた支援を行っているSHE IS HOPE LA。SHE IS HOPE LAはカリフォルニア州のロサンゼルスでシングルマザーの住まい探しや就活を支援しているNPOです。

事業は専門家による(1)生活力向上ワークショップ、(2)就活支援、(3)住まい探し支援の三本柱。
ワークショップにおいては各分野の専門家を招き、シングルマザーに対する家計管理や健康管理などの講座を行うだけでなく、メンタリングやピアサポートを通じた精神的なサポートも実施しています。
就活支援としては、NPOの創設者が代表を務める二つの別団体、SHE IS HOPE LA Boutiqueという古着・中古家具ショップとSHE IS HOPE REALITYという不動産会社での雇用、また、それらの団体でのオン・ザ・ジョブ・トレーニングを通じた就活支援、面接対策などを行っています。
住まい探しについては、現在SHE IS HOPE REALITYを通じて低価格の物件を紹介していますが、いずれはSHE IS HOPE LAとして物件を所有し、シングルマザー世帯が支え合いながら暮らせる拠点を設けることも視野に入れているようです。
古着・中古家具ショップや不動産会社の収入をNPOの活動経費に充てていることや、三団体の取組を連携させることで多面的にシングルマザーを支援していることから、好事例として注目されています。
Warren Village(Home - Warren Village)
最後に紹介する地域密着型NPOは二世代アプローチで子どもの支援に力を入れるWarren Village。

Warren Villageはコロラド州のデンバーで低所得のひとり親家庭に対する支援を行うNPOです。
市内中心部に所有する集合住宅をアフォーダブルハウジングとして提供するとともに、各家庭にアドバイザーを付け、経済的自立に向けた目標設定からキャリア形成や子育てに関するトレーニング、ひとり親同士のネットワーキングまで幅広く支援しています。
また、二世代アプローチという考え方の下、親のみならず、子供たちに対しても少人数制の幼稚園や放課後の部活動、栄養を考えた食事やメンタルケアなどの充実した支援を行っています。
ここ数年は、未成年のひとり親世帯を対象としたサービスを開始したり、約90世帯規模の新拠点を開発したり、デンバー市内の民間賃貸に住むひとり親世帯に対する自立支援パイロットプログラムを立ち上げたりするなど活動の成長も著しく、注目を集めている団体です。
これまでにデンバー市内の8000世帯以上を支援し、アフォーダブルハウジングを卒業するひとり親家庭の93%が定住できる住居を確保し、子どもの86%が国が基準とする学力を超えた学力を身に付けるなど、多くの成果を上げています。
今回はアメリカで活動拠点も取組内容も事業モデルもそれぞれ異なる5つのユニークな団体を紹介しました。
しかし、すべての団体に共通する点もあります。それは、住まいなどのハード支援とトレーニングやアドバイスなどのソフト支援を組み合わせていることです。
日本同様、アメリカでも住まいがなければ仕事や教育などの生活基盤を安定させられませんが、仕事や教育なしには家賃を払うための収入が得られません。この負の連鎖を断ち切るにはハードとソフトを組み合わせた支援が必要だという共通認識の下、どの団体も住まいの提供、シングルマザー同士の交流、地域住民との関係構築、子どもに対する教育支援など、多面的な支援を展開することで多くの成果を出しています。